1997年12月29日 日刊スポーツ
「もののけ」2冠 監督賞&石原裕次郎賞 宮崎監督にたけしが盾
日本の映画配収記録を塗りかえた「もののけ姫」の宮崎駿監督(56)が監督賞を受賞した。前年の受賞者でベネチア国際映画祭グランプリの北野武監督(50)から監督賞の盾が手渡され、世界で評価を集める豪華ツーショットが実現した。北野監督が「来年はこの盾を宮崎監督から受け取りたい」と言えば、宮崎監督も「ぜひ来年はこれをお返ししたい」と応じた。「もののけ姫」は石原裕次郎賞も受賞し、裕次郎夫人の石原まき子ざんから賞金300万円が贈られた。
宮崎監督はあいさつで「どんなつくり方、企画でも一切干渉せず、映画の味方になってくれた」と「もののけ姫」を制作した徳間康快社長と名パートナーの鈴木敏夫プロデューサー(49)への感謝の気持ちをせつせつと語った。ステージ下でプレゼンテーターの出番待ちをしていた北野監督がそれを聞いて大きくうなずいた。同監督はこれか初顔あわぜだったが、壇上で握手を交わした瞬間に二人の顔は自然にほころんだ。
興行的ににふるわなかった北野映画も、理解あるスタッフに支えられ、ベネチアの栄冠にたどりついた。「もののけ姫」は宮崎監督が学生時代から40年近く構想を抱き続けてきた念願の作品。この日までに1270万人の観客を動員、配収100億円。「これを作らなければ、今までのことがうそになる」との決意がヒットに結びついた。
「もののけ姫」は当初の予算を4億円上画る24憶円の製作費をかけた。予算を超えると分かったとき、徳間仕長は「倍になったのか?」と豪快にこたえた。「あれには若いスタッフが感動していました」。毎回、製作費に頭を悩ましている北野監督は「(お金は)あるところにはありますね。私の映画なんて500円の弁当が1個増えただけで死人が出る」とジョークを飛ばし、これには宮崎監督も頭をかいた。
昨年は「キッズリターン」で監督賞をさらった北野監督は「来年はこの場所に立って、同じ盾を宮崎さんからもらいたいですね」と来年の受賞宣言をすれば、宮崎監督も「それでは来年はこれを私がお返ししましょう」と、しっかり受けとめていた。【松田秀彦】(当該記事より)
1997年12月29日 朝日新聞 世相‘97「この人この言葉」
■宮崎駿監督
「何も整理がついていない。自分の頭の変なところを開けてしまったような気がして、とても考えがまとまらない」(10月30日、アニメ映画もののけ姫の配給収入が国内記録を更新したことについて記者会見し、理由を尋ねられて)
宮崎駿監督の作品には、自然と人間のかかわりがテーマとして一貫する。「もののけ姫」は難解というのが大方の世評である。それなのに、何百万人もの子どもが足を運んだ。その秘密の一つは、宮崎監督が子どもたちを妖怪(ようかい)や魔女の世界に迎え入れることだ。
人知を超えるこうした存在を子どもはすっと受け入れる。近代合理主義に洗脳された大人の多くは、否定に掛かる事象だ。子どもにとって、童話の中の生き物が人間の言葉を話すのは、不自然でも幻想でもない。彼らを仲間ととらえ、一体化する。線引きをしたり、区別したりするのは、大人の脳の仕業だろう。
宮崎作品では、登場する人物や物体がしばしば空を飛んだり、宙に浮いたりする。空を飛ぶことなど、大人は夢でしか見ない。ところが、子どもたちはアニメの主人公と一緒に大空を舞う。少年時代の夢をかなえた一人が宇宙飛行士の土井隆雄さんである。
宮崎作品の女牲は、共通した性格を持つ。そろって、しっかり者だ。多くは少女なのに、賢く、強く、自立した姿は、大人の女の雰囲気を漂わす。
「もののけ姫」の盛況は、子どもばかりでなく、少年、少女の心を持つ大人が支えたからだろう。(当該記事より)
1997年12月28日 朝日新聞
消費税アップ、おこづかいダウン 子ども重大ニュースで5位
子どもが選んだ今年最大のニュースは「ダイアナ元英皇太子妃の死去」−くもん子ども研究所(大阪市)は今月半ば、全国の小学四年−高校三年の男女四百六十一人に「重大ニュース」をたずねた。主な事件や出来事三十八項目の中から五項目を選んでもらった結果、「ダイアナ元妃」と並んで、半数以上の子どもが「神戸市の男児殺害事件」を挙げ、サッカー日本代表のワールドカップ初出場が続いた。
子どもらしく「もののけ姫」や「ポケモン」にも関心が集まったが、これらを上回ったのが五位の「消費税率アップ」。同研究所は「おこづかいに響いたのか、予想外のランク入りでした」。(当該記事より)
(くもん子ども研究所調べ、%は複数回答の率)
子ども重大ニュース 1997 1位 ダイアナ元皇太子妃死去 55.7% 2位 神戸市の男児殺害事件 50.5% 3位 サッカー日本代表がW杯へ 43.4% 4位 安室奈美恵さん電撃結婚 33.2% 5位 消費税率5%に引き上げ 31.7% 6位 映画「もののけ姫」大ヒット 27.8% 7位 「ポケモン」ブーム 25.4% 8位 ペルー大使公邸人質事件 22.8% 9位 山一証券などの金融機関破たん 21.9% 10位 マザー・テレサ死去 19.7%
1997年12月27日 朝日新聞 夕刊
ウイークエンド経済
大化けしたで賞 ポケモン/もののけ姫
今年の流行最前線には、こり世にいないものに関したものが目立った。堂々の横綱はポケモンこと「ポケットモンスター」。故郷のゲームソフトを飛び越え、テレビアニメキャラクター商品などで大活躍。「勢い余ってテレビの中で暴れすぎちゃった」とピカチュウの反省の声も。
アニメ映画「もののけ姫」は大関。一九八二年の「E・T・」以来十五年ぶりに国内の配給収入記録を更新したのは、もののけの力のせいか。小結は「たまごっち」。発売一年で国内外合わせて三千二百万個を売った。敢闘賞はサンリオのキャラクター「キティちゃん」。生誕から二十二年たった今年、人気が再燃。特別仕様の軽自動車まで登場した。
今年の消費動向について博報堂生活総合研究所の関沢英彦所長は、「物質を所有する欲求よりも、失楽園ブームに見られるように、日常生活とは別の世界を体験したり見たりしたいという傾向が強かった。来年はますますこの傾向が強まるのでは」と見ている。(当該記事より)
1997年12月27日 報知新聞
宮崎駿監督 次回作は少々お待ちを…。 21世紀に会いましょう
日本が誇る世界の映像作家、宮崎駿監督(56)は、特別賞を受賞した「もののけ姫」のネクタイを締めて登場した。「長くやっていると、こういうこともあるんだなと思います」簡単なあいさつに、戸惑いが表れていた。
7月12目に封切られ、配給収入105億円を突破。観客動員が1100万人以上と、日本映画史上最高のヒットを記録し、現在も上映中で記録を更新し続けている。そんな騒ぎの中、宮崎監督は8月から信州の山小屋にこもり、目の治療にも歯科医にも行かず、のんびりと過ごしていた。
「アニメといえど、時代とかみあっていなければいけない。不安や疑間、ためらい、絶望などニヒリズムも含めて、僕の中にもあったそれを正直に映画に出した。小さい子に受け入れられるとは思わなかったが、自分たちと同じ時代を共有し、同じ問題を肌で感じているのだと思った」
これまでのようにアニメーターが監督をやるのは無理だという。「この日本に必要なのは心から笑える映画だなと思った。自分たちの映画には大きな空白ゾーンがあることが『もののけ』を作っているうちにわかった」
作品を振り返り、次のことが考えられるようになるのに半年かかる。「脳のふたが締まりきっていない。次の作品を立ち上げるにしても、早くても2000年にできるかどうか」遠慮がちな言葉を裏返せば、21世紀には次回作が期待されるということだ。
「もののけ姫」は原作の絵本とは、キャラクターもストーリーもまるっきり違う。「別のタイトルにしてもよかったんだけど、鈴木敏夫プロデューサーが『もののけ姫』でいくって言ってね」宮崎作品のヒット作のタイトルには「の」が入っているため、縁起をかついだ。「『の』が2つも入っているから、大ヒットするだろうと思ってね」と鈴木プロデューサー。会場にはゼネラル・プロデューサーの徳間康快・徳間書店社長の満足そうな姿もあった。
来年春には全米公開も決まり、英語版吹き替え用の声優にハリウッドの若手トップスター、レオナルド・ディカプリオも有力候補に挙がっている。「E・T・」を超えた「ザ・プリンセス・モノノケ」が今度は米国で旋風を起こす。(出川加寿子)(当該記事より)
1997年12月25日 日本経済新聞
平成九年ヒット商品番付 キーワードは「生活防衛」「子供向け」
日本経済新聞社は二十四日、「平成九年ヒット商品番付」をまとめた。それによると東の横綱は映画「もののけ姫」、西は東京三菱銀行の預金。大関は携帯ゲーム機でブームになりキャラクター商品に広がった「ポケットモンスター(ポケモン)」と「たまごっち」が入った。消費が冷え込む中での"、子供狙い"、先行き不安からの安定志向を反映した"生活防衛"がヒットのカギになった。(詳細は25日付日経流通新聞に)
「もののけ姫」は日本映画の記録を次々に塗り替えた。映画館には公開から数ヶ月たっても長蛇の列ができ、観客動員数は千二百万人を突破。配給収入は日本での公開映画で初めて百億円を超えた。室町時代を想定した舞台。自然を侵食しつつ生きなければならない人間のかっとうや、集団同士の対立を描いた内容は決して明るくないが、一緒に生きようという訴えかけが、不安定な世相の中で、子供だけでなく、大人の心にも響いた。
ヒット賞品や流行で世相をみるねらいで始めた番付は今年で二十七年目だが、
四月の消費税率引き上げや金融不安で、消費者の生活防衛意識が番付にも反映されたのが今年の特徴。格付け会社に高い格付けをされた東京三菱銀行に個人預金が雪崩のようにシフトしたのはその典型だ。五月ごろから増え始めた同行の個人頂金は、冬のボーナス預金が始まった十二月初旬の時点で純増額が二兆円。残高は十五兆円を超え都銀トッブに躍り出たという。「暗い年だけに人々が安定志向に走ったのではないか」と高垣佑頭取はみる。
搭乗距離に応じて航空券などを提供する航空各社の国内線マイレージサービスには、四月以降、二百万人以上が会員登録。十月の酒税法改正で価格が下がったウイスキーは同月、十一月と前年比30%以上の伸びを示した。
一方、「ポケモン」は十二月にテレビアニメを見た子供が次々と倒れ病院に運び込まれるなど、マイナス面も含め社会現象化した。ゲームソフトの異計販売本数は七五〇万本を突破し、キャラクター賞品を含めた市場規模は二千億円に育ったといわれる。携帯型電子ペット育成ゲームの「たまごっち」は、千五百万個以上を販売。一時は品切れ状態が続き、定価千九百八十円の賞品に一万円を超える値が付いた。子供をターゲットにしヒットした賞品としてはゲーム機の「プレイステーション」、発光体付きシューズなども挙げられる。
「環境」や「健康」に関連する商品も強みを発揮した。ガソリンと電気の併用で走るトヨタ目動車の「プリウス」、低価格化した家庭用生ごみ処理機などが本格普及の端緒をつかんだ。動脈使化の予防になるといわれた赤ワイン、虫歯を防ぐと話題になった「キシリトールガム」、ビタミンCや食物繊維を合む「キリン サプリ」などが消費者の購買意欲をくすぐった。(当該記事より)
平成九年ヒット商品番付 東 西 もののけ姫 横綱 東京三菱銀行 ポケットモンスター 大関 たまごっち モバイル情報機器 関脇 ダイアナ元妃追悼CD アサヒ スーパードライ 小結 失楽園 少年H 前頭1 ガーデニンググッズ デジタルカメラ 同2 赤ワイン プレイステーション 同3 デジタルビデオカメラ キシリトールガム 同4 小顔化粧品 国内線マイレージサービス 同5 マイペディア97 プリウス(トヨタ自動車) 同6 セピア色の写真 キリン サプリ 同7 電子マネー 家庭用生ごみ処理機 同8 Gショック(カシオ計算機) MDプレーヤー 同9 厚底サンダル・ブーツ JR京都伊勢丹 同10 ウイスキー 発光体付きシューズ 同11 バーバリー・ブルーレーベル ベルギーワッフル 同12 クイーンズスクエア横浜
1997年12月25日 日本経済新聞
回顧'97 邦画、海外で高い評価 「もののけ姫」記録的ヒット
九七年は日本映画史に記憶される一年になった。国際映画祭での相次ぐ受賞、記録的な興行成績と、久々に邦画の華やかな話題でにぎわった。
低かった国内の意識"邦画復活"の幕開けは、五月のカンヌ国際映画祭だった。今村昌平監督の「うなぎ」がグランプリ(パルムドール)を、仙頭(旧姓・河瀬)直美監督の「萌の朱雀」が、新人賞にあたるカメラドールを受賞。九月のモントリオールでは、市川準監督の「東京夜曲」が監督賞を獲得した。
続くベネチアで、日本人として三十九年ぶりに北野武監督の「HANA−BI」がグランプリ(金獅子賞)に輝き、にわかに関心が高まった。ただ、欧米では北野監督は早くから注目されており、受賞は当然という評価。むしろ驚きをもって受け止めた国内の反応に、自国の映画に対する意識の低さが表れていた。
七月には、周防正行監督の「shall Weダンス?」が米国で封切られ、現在も興行中というロングランヒットに。収益は黒沢明監督の「乱」を抜いて九百万ドルを超し、日本映画の記録を塗り替えた。時代劇もハリウッドのおひざ元で通用することを証明した。
若者や女性から支持
国内では、宮崎駿監督のアニメ「もののけ姫」が七月に公開され、配給収入百億円、観客動員数千二百万人という怪物的記録を生んだ。ステイーブン・スピルバーグ監督の「E・T・」を抜いての新記録樹立だ。自然と人間社会の共存を問う深遠なテーマ、「生きろ」というメッセージへの若者の共鳴など、単なるブームというより社会現象として波紋を広げた。
庵野秀明監督のアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の劇場版も、十代から二十代の若者を中心にブームを巻き起こした。「シト新生」「THE END OF EVANGELION」の二作は合わせて約二十五億円の好成績。森田芳光監督の「失楽園」は、中高年層や女性の支持を得て約二十三億円という邦画では異例のヒットになった。
一方、社会派娯楽作品で大衆に人気を博した伊丹十三監督の死という出来事もあった。
良質な物語求める
「もののけ姫」の陰に隠れたが、洋画も順調だった。興行一位は昨年末から公開された「インデペンデンス・デイ」で、配収約六十八億円。ジュラシック・パークの続編「ロスト・ワールド」も約六十億円。この二作に象徴されるように、ハリウッドはSFXを駆便した大作志向がますます強まっている。特殊効果に頼りすぎ、物語自身に魅力のない作品が増えているのも事実だ。観客の足が日本映画へ向かったとすれば、単純な視覚の快楽から良質な物語へ回帰したいという欲求の表れかもしれない。
ヒット作に恵まれたことに加え、観客が足を運びやすい複合型映画館が全国で増えたこともあり、ここ十年間ほど年間一億人前後で推移してきた観客動員数が、今年は一億五干万人に達した。客観的に見れば、今年の活況は幸運な偶然が重なった結果に過ぎないとも言える。だが、邦画見直しの機運を生かして来年以降もブームを維持することは可能だろう。そのために映画会社やブロデューサーが、良質な企画を打ち出し、志ある監督を資金的に支えることができるかどうか。正念場はこれからだ。(文化部 白木緑)(当該記事より)
1997年12月25日 日経流通新聞 1面
平成9年ヒット商品番付 2人の「姫」が見つめる先は 新たな価値観胎動
日経流通新聞は「平成9年ヒット商品番付」を決めた。東の横綱が「もののけ姫」で西野横綱が東京三菱銀行の預金だ。
「もののけ姫」は決して明るい映画ではない。自然と人間のかっとうを描きつつ、クライマックスでも答えは出ない。登場人物に悪人はいない、だがみんな不幸になっていく。すっきりしない結論が返って時代の気分にシンクロナイズ(同調)したのだろうか。
「失楽園」は中年男女の心をとらえ小説に続いて映画・ドラマでもヒットした。「不倫する」という言葉は「失楽園する」に置き換えられ、都心のホテルには失楽園カクテルも登場した。健康にいいと売れた赤ワインはこの物語の中では最後に二人を死に導く役目を果たしている。
こうした時代の閉塞感が端的に現れたのが東京三菱銀行の預金だ。金融機関の大型倒産が相次ぐ中で、人々は格付け会社の評価が高かった同行に殺到し、同行の個人預金は今年、2兆円以上増えた。
行き詰まり感が広がり、消費は"末梢(まっしょう)"化した。最大の消費勢力であり続けた団塊の世代は厳しい条件に直面した。自分でモノを買わず子供たちにささやかな消費の夢を託した。
「たまごっち」、「ポケモン」の爆発的なヒットはその結果と言える。定価1980円のたまごっちに数万円の値が付いたが、親たちは子供のために行列の最後に並んだ。
そんな子供たちにも閉塞感がつきまとった。神戸の連続自動殺傷事件からは精神的に満たされない子供の姿が垣間見えた。加害者の少年Aの対極にあったのが、50数年前の「少年H」だったのかもしれない。「少年H」が若い人にも読まれたのはセピア色の雰囲気を漂わせていたのだろうか。(当該記事より)
1997年12月25日 日経流通新聞 2面
映画 「もののけ姫」 ヒットの背景を探る
近所の公園でよく一緒に遊ぶ小学生の男の子から「もう七回も見たよ」と言われた。何時問も並んで・・・。いったい、どこが彼の琴線に触れたのだろう。
アニメとしては乱暴だと思う。まず、だれに向かってつくったという対象がはっきりしない。大人向けではないし、かといって、子供向けという訳でもない。作品からは、理解の助けになるような『説明』も多く排除した。説明をしているとどんどんウソくさくなる。それを避けたかった。その結果、わけがわからない部分もたくさんある。
ただ、作品では、時代や世の中の、部分・部分を切り離して、その部分だけの答えをだすのではなく、一全部ひっくるめて、どうしようもない問題に取り組んだつもりだ。取り組むんだ人たちがここにいるぞというのがメッセージだ。
やれなくなっている子供たちがかなりいる。祝福されない憎悪や怒りが整理されないでいる。ときほぐせなくても、一緒に生きようなら一言えると思つた。
僕自身にはヒットの理由はわからない。「E・T・」を抜き日本での最高記録を更新すると観客がまた増えたそうだ。ヒットとはきっとそういうことなのだろう。私の所属するスタジオ・ジブリは「人に優しい癒(い)やしのジブリ」と冗談めかして呼ばれているそうだ。日常の底にひそむもの、解決本能の間題と向かい合おうという意識は常にある。次は、小学三年生くらいの女の子を、我々おじさんが心から楽しませてあげる、そんな作品をつくろうと考えている。(談)(当該記事より)
1997年12月25日 朝日新聞
97年を振り返って 記者座談会 海外賞相次ぎ、若手も台頭
映画
A年末になって伊丹十三、三船敏郎の死という衝撃的なニュースが飛び込んだ。
B萬屋錦之介、勝新太郎に続き、三船まで。映画スタ−らしい華のある俳優が次々にいなくなる…。
C伊丹監督の自殺もショック。理性的な強い人という印象だったのに。映画界の大きな損失だ。
A総体では明るい話題が多かった年だったかな。
C「うなぎ」「HANA−BI」「東京夜曲」と海外の映画祭で大きな受賞が相次いだ。「もののけ姫」は配給収入百億円を突破、史上最大のヒットになった。
Bどちらも突然ではないと思う。映画祭でいえば、ここ数年、独立系作品の積極的な出品で、日本映画への注目度が高まっていた。
C「もののけ姫」も、過去の宮崎駿作品への信頼がヒットにつながったと言える。
A「shall we ダンス?」が米国で十億円突破のヒット。「もののけ姫」も欧米公開が楽しみだね。
C「失楽園」は大人の観客を集め、「エヴァンゲリオン」は若者に熱烈に支持された。洋画は「インデペンデンス・デイ」「ロスト・ワールド」がヒット。映画人口も昨年を二五%も上回る見通しだ。
B新人・中堅の秀作も目立った。カンヌ新人賞の仙頭(旧姓・河瀬)直美、青由真治、望月六郎、矢口史靖、サブ、瀬々敏久、黒沢清、諏訪敦彦、中島哲也、犬童一心、三谷幸喜…。
C原田真人、原将人も若々しい作品を発表した。秋口には「東京日和」「愛する」も人気だった。みな独立系だね。
A大手で意欲作といえば、「誘拐」か。松竹は小中規模の邦画チェーン「シネマ・ジャパネスク」を始めた。
Aシネマコンプレックスの増加でスクリーン数は昨年より五十以上増えたが、邦画の受け皿になるかどうか。
C文芸坐の倒産という残念な話があった。「ゴジラ」の生みの親の田中友幸プロデューサー、「君の名は」の大庭秀雄監督、「八月の濡れた砂」の藤田敏八監督も亡くなった。日本映画復興と言われる一方で、一つの時代の終わりも感じる年だったね。
音楽
A音楽業界は、なんだか元気がない一年だった。
Dまず、CD不況だね。ポピュラーでいえば、ミリオンセラーは去年より増えたのに、二十万枚、三十万枚の中ヒットが極端に少ない。カラオケの客足も鈍ったようだ。
Eクラシックも全般に厳しいけれど、ピアソラのカバーがブームだった。それから「もののけ姫」の主題歌を歌ったカウンターテナー米良美一のブレーク。アルバム「ロマンス」は十五万枚に迫り、国産では久々の大ヒットだ。
A映画やテレビとのタイアップがやっぱり強い。
D去年からのオーロラ輝子、猿岩右、ポケット・ビスケッツ…。考えてみれば、みんな企画物。グレイなどバンド系のビッグヒットもあったが、ベスト盤だった。
A究極の「企画物」がダイアナ妃関連じゃない?エルトン・ジョンの「キャンドル・イン・ザ・ウインド」は世界で三千万枚を越えて、史上最大のヒットになった。
Dエルトンも気分は複雑かもしれないね。こういう追い風の力ばかりが強いと、昔楽自体の元気が奪われるような気もする。
Eクラシックでも、一枚千円のトスカーニ選集のように、過去の遺産を廉価版で出すと売れる。現役アーティストには強大な競争相手だ。
Aライブはどうだろう。
Dナゴヤドーム、大阪ドームがオープンしたが、全般にドーム級のコンサートはホイットニー・ヒューストン、年末のラルク・アン・シエルなど数えるほどだった。
Eホールの新設が続いて、クラシックの演奏会の数は多かったな。
D時代を象徴するような歌、社会にインパクトを与えたコンサートがあまり思い浮かばない。それが「元気がない」ということだろうね。
Aダンスはどうだった?
E新国立劇場にバレエ団ができた。「眠れる森の美女」など人気演目が主体で、既存バレエ団には「官が民間を圧迫するのか」と反発もある。
F競争回避の意味もあって、契約ダンサーは若手が中心だね。静岡県舞台芸術センターも専属ダンスカンパニーを旗湯げしたが、人材集めには苦労したようだ。
Aシルヴィ・ギエムと熊川哲也が大人気だったね。
Fそれぞれファン層をぐんと広げ、熊川は映画やCMに引っ張りだこだった。
Eダンスの観客層も広がるといいんだけれど。(当該記事より)
1997年12月24日 朝日新聞 夕刊広告
X'masも!
最長不到ロングラン記録を樹立して、いよいよ'98年へ突入!
1997年12月24日 スポーツニッポン
「メモリアル97→ときめき98」 邦画編 止まらぬ"もののけ台風"
師走を揺るがせだ伊丹十三監督のショッキングな自殺。その余韻がまだ冷めやらないまま、今年もまもなく暮れようとしています。この一年、"聖輝"の離婚に始まり安室奈美恵の電撃結婚、杉村春子さんや勝新太郎さんら名優が散ったのも忘れられない出来事です。そんな一年を映画、音楽、放送、演劇各担当記者が徹底検証するとともに、来年を展望する「メモリアル97→ときめき98」。まずは映画(邦画)編からスタートです。
今年の日本映画界を象徴する「もののけ姫」旋風。わずか四十四日で「南極物語」(八三年)の日本映画の記録(配収五十九億円)を更新し、ついにはスティープン・スピルバーグ監督(50)の「E・T・」(八二年)の配収九十六億円をもクリア。史上初めて百億円の大台に乗せた。
観客動員千二百五十万人は、国民の十人に一人が見た計算。新記録を樹立した十月三十日。「まだ自分が何を作ったのか、心の総括ができていない」と宮崎駿監督(56)が戸惑っていたのもうなずける。
十三万五千枚の原画を使った映像美の素晴らしさとスピード感にひかれた観客も多いが、アニメファンの中心である低年齢層を意識しなかった難解な?ストーリー展開がリピーターを大量に生み出し、大ヒットにつながった。製作総指揮を務めた徳間康央・徳間書店社長(75)は「風、空、水、太陽の光を見事に描いた世界一の技術の映像と音楽が熱烈な恋愛をしで、最後まで突き進んだ。"生きろ"というキャッチコピーがヽ混迷の時代の中で一つの方針を生んだ」と豪語する。来夏には主役アシタカの声にレオナルド・ディカプリ才(23)を配しての英語吹き替え版が、欧米で公開。日本に逆輸入も予定されており、「もののけ姫」はさらなる広がりを見せる。
その陰に隠れた形となったが、一大センセ一ションを巻き起こしたのが「新世紀エヴァンゲリオン劇場版」。製作工程の遅れで二度の公開に分けだが、これが逆にファン心埋をあおり、ファンが劇場に殺到。経済効果三百億円といわれる実力を証明した。まだ、事故の影響が心配されるが、来夏公開の「ポケット・モンスター」、世界的アニメ作家・大友克洋氏(43)総監修の「スプリガン」など話題作が来年も続き、"アニメ天下"はしばらく続きそうだ。
頑張ったのは「失楽園」。中年層の絶大な支持を得たブームは、テレビドラマにも波及。"新生"角川映画の第一弾として華々しい船出を飾った。今年の映画人口は、前年比三千万人アップで一億五千万人台も見込めそう。全国ロードショーだけでなく、竹中直人監督の「東京日和」、カンヌで新人賞を取った河瀬直美監督の「萌の朱雀」などは、小規模公開で実績を挙げた。また、カンヌの「うなぎ」、ベネチアの「HANA-BI」(公開は来年一月二十四日)など海外での活躍も今年の成果。しかし「日本映画が盛り上がっている」との判断は早計。観客のニーズの多様化で、映画表現の広がり、盛り上がりはあるが、残念ながら映画産業がそれに必ずしも追いついていないのも実情。来年は、ターゲットを絞り込んだ作品作り、それに合わせだ劇場選びが、ヒットのカギを握りそうだ。(鈴木元)(当該記事より)