●「もののけ姫」字幕付き上映のトピック
topics of the film be shown with subtitles

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字幕付き上映の画面


字幕付き上映のねらい

 聴覚にが不自由な人でも映画を楽しめるよう、「もののけ姫」に日本語の字幕がつけられ、1997年8月29日〜31日の3日間、名古屋市内で上映されました。この上映は、耳の不自由な人達のコミュニケーションの手助けをしているボランティアサークル「まごのて」の有志によって実現しました。このサークルは、18年も前からOHPによる要約筆記などで聴覚が不自由な人のコミュニケーションを助ける活動を行っています。映画字幕の付加も手掛けていましたが、4年前からはコンピュータによる字幕作成とプロジェクターによる上映システムとなり、これまでで約70本の映画を上映してきたそうです。

 字幕付き上映は、名古屋市内にある今池国際シネマにて行われました。

 日時:1997年8月29日(金)〜31日(日)
 場所:名古屋市千種区 今池国際シネマ
 時間:9:10, 11:35, 14:00, 16:25, 18:50〜(ただし31日の最終回は字幕なし)


今池駅交差点から国際シネマ方向を望む

国際シネマ 入口

出入口周辺の様子
 さて、この上映期間中は、他の多くの映画館と同様、立ち見が出るほどの盛況でした。特に、今回のような一般の映画館では、聴覚の不自由な人も一般の健聴者の人も一緒に映画を鑑賞できるところに意味があります。映画館には、日本語字幕が付加されることを告知する張り紙が出されました。もちろん、事情を知らずにきた一般のお客さんも多かったのですが、字幕上映の趣旨はよく理解されているようで、雰囲気は通常の映画館と何ら変わりませんでした。

字幕上映を告知する張り紙

同 告知看板
 さて、字幕つき上映ですが、これは健聴者にもなかなか味があります。普通に見ていたのではつい聞き逃してしまうセリフもちゃんと文字で再現されていますので、内容の確認にはもってこいです。

ヒイ様:「掟に従い、見送らぬ。」
ジゴ坊:「人の心のすさむこと、まさに麻のごとしじゃ。」
ゴンザ:「だが得心がいかぬ。」

などと、セリフが漢字で表現されると、聞き逃していた意味が明解に理解できます。

 なお、効果音のところですが、これがそれなりに工夫されていて楽しめました。
字 幕 場 面
♪旅立ち♪♪(期待と不安)♪  アシタカの旅立ち、カヤの見送り
ピィーン(首飾りの音) サンの首飾りが鳴ったときのシーン
ウォーーーーン!(おおかみの声)  モロの子の遠吠え
バベーン 石火矢発射の音
♪(神秘に包まれて)♪♪♪  シシ神の森でBGMが流れるところ
ブギャー フヒーギィー ブヒー 乙事主の遠吠え
パカパカパカ  アサノの使者の馬の音
ギュイー キュイー 乙事主の居場所をサンに伝える猪の声 

他にもいろいろとあって、文字起こしの苦労がしのばれます。





どのようにして字幕を実現したか

 さて、「もののけ姫」の日本語字幕化作業は、おおよそ以下のような要領で進められました。

(1)映画館の承認を得てセリフを録音。

(2)録音テープを元に文字起こしをして、パソコンで編集。1回に1行から2行のセリフをカード化し、順番に並べる。
カードの総数は約1,740枚に達したそうです。

(3)実際に上映中の映画館へ行き、セリフのカードを差し替えるタイミングを記録。(どのセリフが何分何秒から話されるかの同期をとり、字幕マスターを作成。タイミングを最適なものにするためには20回以上も劇場に足を運ぶことが必要だったといいます。)

(4)スタジオジブリから届けられた台本と照合してセリフに間違いがないかをチェック。(さらに、完成後ジブリ関係者にも見てもらって万全を期したそうです。)

(5)完成した字幕マスターをビデオテープにデュープして完成。


 このようにして作成した字幕テープを「もののけ姫」のフィルムと同時に再生し液晶プロジェクターでスクリーンの左側に投影することで、映像と字幕の同時再現を実現しています。




場内風景。字幕は左側から投影

補聴器用磁気ループ
使用された設備・他

 字幕を上映する機材には、ビデオと液晶プロジェクターが使われました。字幕をチェックするため、小さな液晶モニターを備えた松下製のVTRが目を引きましたが、これはいわゆる普通のVHSデッキで、液晶プロジェクターと同様、普通に市販されているものです。そして、映画のスタートに合わせてテープを再生すれば、あとはラストまでセリフが流れるづけるという案配です。そして、定位置に字幕が投影されるように調整され、余計な部分に光がもれないよう、レンズの開口部にも目張りが施されていました。

 字幕は聴覚が不自由な方向けの設備ですが、同時に難聴の方でも補聴器をつけてセリフが聞こえるよう、館内の客席を取り囲む形で磁気ループが設置されていました。この中に入って補聴器をつければ、あたかもラジオの放送のようにセリフが磁気ループから補聴器へ届けられるとのことです。


字幕上映用機材。意外に小型。
(右側は「まごのて」の方)

上映用機材(液晶モニタつきVTRと
液晶プロジェクターの組み合わせ) 
 フィルムの映写機とシステム的にシンクロさせているわけではありませんから、タイミングどりに使った今池国際シネマ以外で上映すると、次第にタイムラグが生じてきます。映写機のフイルム送りのスピードが、各映画館ごとによって微妙に異なるからです。従って、今回作成された字幕マスターは、ここの映画館専用ということになり、直ちに別の映画館でも実現するというわけにはいかないところが残念です。ここはボランティアが有志で行うことの出来る限界でもあり、致し方ないことかもしれません。

 映画館側では、スクリーンを左右めいっぱいに広げて字幕の投影に対応していました。そのため、映像の両端の境目に、若干のノイズが出ていました。これは、通常の映画館ではトリミングされてしまうところなのですが、逆にいえば、文字字幕と合わせ、フイルムの画像情報が最大限に映し出された例であるともいえます。



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 「もののけ姫」の字幕付き上映は、有志の熱意はもちろん、映画館・配給会社・スタジオジブリ等の理解と協力があって実現しました。注目すべきなのは、健聴者も入場する一般の映画館で字幕付き上映がなされることです。これによって、より多くの層に「もののけ姫」が鑑賞されること、そして何よりも、耳が聞こえる人も不自由な人も一緒に映画の感動を共有出来ることは大変に意義深いことだと思います。

 なお、今回の上映は、 28日付朝日新聞(名古屋版) でも大きく報道されました。
(この原稿作成には、OHP要約筆記等研究連絡会「まごのて」の渉外担当:下出隆史氏の協力をいただきました。)






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