富士見高等学校(4)


 前回に引き続き、将来の夢の話です。村山藍さんはエヴァンゲリオンに影響されて映像関係の仕事に就きたくなったという。庵野監督は刺激して悪かったと謝り(?)つつ、自分の職業観を語り始めました。監督の情熱の源は何か、それを知りたくて、みんな真剣に突っ込みます。

−−ほかのみなさんは将来の夢は?

村山 映像の方をやりたい。けっこうエヴァンゲリオンに刺激されて、アニメとか最近、興味持っているんです。

庵野 刺激して悪かった……。よした方がいいです。

一同  アハハ。

村山 今、美術の塾とか通っていて、美大の映像学科受けるための練習とか、いろいろやっています。今まで楽しいと思った勉強はなかった。今は自分のやりたいことだからすごい楽しい。

庵野 大したことじゃないですよ。

村山 私から見たら、すごい……。

庵野 俺はあんまり自分の仕事に誇りを持てない。

村山 そうなんですか。すごいと思いますけど。

庵野 やらなくていいなら、やらない方がいいですよ。こんな仕事。

村山 何かやりたいことやっていて、いいなと思う。

庵野 違う違う。これしかやれないだけ。映画1本作るより、ちゃんと結婚して子どもを作って、その子どもを一人前に育てる方がよっぽど偉いですよ。一番偉いのは、それやりながら、アニメも作る。俺の場合は、ほかは一切犠牲にしているから、何とかなっているけど、ほかを全部、犠牲にするようなことはせんでもいいって思うよ。

一同  フフ

「夢から覚めた後が勝負」

庵野 でも、好きならいいんじゃない? こういうのはある程度好きじゃないとできない。あとはどっか1回あきらめれば大丈夫ですよ。

高橋 1回あきらめるんですか?

庵野 うん。夢が覚める瞬間。好きだけじゃできない。

柴崎 あきらめて、それでもやっぱりやるってことですか?

庵野 ま、そっからが勝負ですね。ある程度はね、だれでもやってりゃ一つのレベルに行けるんですよ。先に行けるかどうかはその人次第。それから先は資質みたいなもの。努力ではできない。その先でけっこうあきらめる。あと、自分より必ず上の人がいるんですよ。いい気になってやっていると「こんなにすごい人が世の中にいるんだ」って時に、そこでどうなるか。

柴崎 どんなことでもそうかも知れませね。

庵野 宮崎駿は天才だなって。でも、何かその人にどっか1点で勝ちたいっていうのがあるんですよ。

柴崎 そういうところ頑張ったんですか?

庵野 成り行きなんですけど、スミマセン。だから、何かそんなに固執してないんですよ。

柴崎 1点頑張るって言うのは、それを磨こうと思っているわけですか?

庵野 なんか切磋琢磨とか努力系じゃないんですよ。

柴崎 感覚的なもの?

庵野 うん。もっと面白くならんかなっていう感覚ですかね。

柴崎 努力とかじゃないんですか。

庵野 要するにこれでいいやって思わないこと。

柴崎 できるところまで?

庵野 そう。やれるんだったら今やってこう。

柴崎 どんなことしても?

庵野 そうそう。作品至上主義だから冷たい。人を犠牲にする。その中に自分を含んでいるんですけどね。そこまでやるっていうのは覚悟みたいなものですよ。

柴崎 そういうふうにして仕事するといいですね。

庵野 覚悟があると、甲斐があるんですよ。だから楽しい。すごいシンドイんだけど、「まあいいや」と思えちゃう。逆にサラリーマンの覚悟はできない。

柴崎 サラリーマンに情熱をかけるっていうのができない?

庵野 作品を1本完成させる方に行っちゃう。

「情熱注ぐものあれば」

柴崎 そういうの見つけられるといいですね。

庵野 うん。だから別にそれはいいと思いますよ。一生かけてこの女好きになるとかでもいいと思う。そういうの全然否定しない。だから、自分の子どもを一人前にしようと情熱かけるのもいいと思うんですよ。だから専業主婦もOKだと思う。

柴崎 う−ん。そうですね

(毎日中学生新聞9月3日号より転載)


[MENU] [BACK]